<b>ジョアン・ジルベルト 東京公演最終日</b>

「アリガトウ」という小さな声で始まったジョアン・ジルベルトの東京公演最終日。本人が出てきたときには感激で涙が出そうになった。

東京フォーラムの大きなホールにマイクスタンドは2本だけ。空調も切られ,非常口の電気も消されたなかで黙々と唄うその存在感は半端ではなかった。ギター一本であんなにたくさんの音が出るなんて知らなかった。70歳を超えてもあんなに艶っぽい張りのある声で唄えるなんて知らなかった。

頭の中がすっかり音で埋まっていたとき,演奏がぱったりやんだ。これが昨年の初来日のときの伝説となった沈黙ってやつか。事情をよく知る多くの観客の拍手は鳴り止まなかった。これが終わるとこのライブも終わりだなぁ……,と感慨にふけっていたが,ジョアンはまったく動かない。寝ちゃったんじゃないかと心配になるくらいの時間が経ち,拍手がとまったとき,ジョアンは悠々と演奏を始めた。

「ごめんなさい。今日は調子がよくない」とジョアンは申し訳なさそうだった。でも,即興で日本のことを唄ってくれたり,機嫌は悪くないんだろうなと思った。

イパネマの娘」が終わった。これで終わりなんだなぁ。よかったなぁと拍手を贈っていたら,ジョアンは躊躇することなくギターを抱えてアンコールのアンコールのアンコールを始めた。

ここからがすごかった……。疲れて帰りだす観客が出始めるほど,演奏が止むことはなかった。このまま朝まで続くんじゃないだろうか,そんなことを真剣に考えてしまうほどジョアンの演奏は力強かった。

15分くらいの遅れで始まったこのライブ,終わったのは9時20分。全46曲,4時間に及ぶ大演奏会だった。

予定調和ではない,こういうのが本当のライブだね。と,私の師匠であるガロートさんと酒を囲みながら盛り上がったのだった。

なんかとてつもないパワーを感じた一日だった。

# 無事帰れましたか > ガロートさん