<b>青豆さんな生活</b>

 といっても住むところの話。


 もともとリフォーム業を営む(営んでいた)現在の大家さん。私がいま暮らしているアパートの外装を塗り直すと言い出した。
 まぁそれはそれでよい。私の生活に支障をきたすことはない(はず)。と思っていた。
 のだけど,これに加えて我が家のドアを交換すると言い出した。経年劣化にともなって錆が浮いてきてしまったからだとか。
 まぁそれもよい。新しいドアと交換するだけだ。と思っていた。
 これに加えて,私の家のごく近所で新築マンションの建築が始まった。
 まぁしかたがない。もともと地主さんの土地。相続税とかそういうのが絡んだいるのだろう。土地持ち,金持ちはいろいろたいへんだ。と思っていた。


 さて,これらの仕事はすべてパラレルに進行している。
 朝から重機が動き出し,壁一枚向こう側で朝から塗装作業が進む。
 で,ついにあるとき忽然とドアが違うものに変わっていた。まぁ,これまでの付き合いもあるし,事前に聞かされていたので,突然鍵をあけられても許容する。


 この時点で嫌な予感がした。
 新しくなったドアは,下塗りが施されているだけ。少し養生したとは言っていたが,塗料のにおいが部屋にこもる。
 その二日後。ドアの内側は上塗りが施されていた。


 締め切った部屋に塗料を塗りたてのドアを放置したらどうなるのか,我が大家さんは想像できないらしい。
 塗料から染み出すにおいと化学物質が部屋に充満し,人が暮らせる状態ではない。
 窓を開けると,外壁の塗料が部屋に満ちる。開けられないし,閉められない。
 加えて朝から重機の騒音。
 気が変になりそうである。


 大家さんに怒鳴りこんでみたものの,リフォーム好きな大家さんの頭には作業工程しか頭にない。
 最新の塗料ですぐに乾くから問題ないでしょ,とかおっしゃる。いや。仕上げたドアを取り付けてほしかった。
 お前は煙草を吸うからその影響があるのでは? とか。因果関係があるとは思えない。
 あくまで問題はそちらにあるという態度に,さすがに私は怒鳴り声をあげた。
 これは健康問題である。明日引っ越すというのも難しい。とりあえず,避難させてもらう。
 と,主張して,家賃1か月分を返納してもらう。


 遠くないのだし,実家から通えばいいんじゃないのと周りの何人かはアドバイスしてくれる。
 が,それはそれでけっこう面倒。
 来週明けにはiPadも届く(とても重要だ(?))。


 というわけで,ウィークリーマンションというのを予約してみた(つーか,泣きついた)。当初考えていた地域ではなかったけど,まぁ現住所からさほど遠くない物件を取り急ぎ確保できた。教えてもらった住所を改めて調べてみると,環八沿いであった。とりあえず避難場所としては十分だと思われる。冷静さに欠ける気もするが,口いっぱいに広がる塗料の味から逃れるのが最優先である(厚化粧とか塗料とか,その手の化学物質を私は“味覚”として感じてしまうのであった。神経質だからねと指摘を受けたこともあるけど,そういう体質なのだからしかたがない)。


 生活に必要なものは十分すぎるほど用意しているそうで,これで定期的に食糧が供給されれば青豆さんだなって感じ。
 空を見上げると,月が二つ見えるかもしれない。