The UKIYO-E 2020/東京都美術館

4連休3日目、上野の美術館に足を運ぶことにした。後半戦が主たる目的だったのだけれど、なかなか出歩けないしダブルヘッダーでいいかと思った次第。が、私の時間の見積もりが甘すぎで、けっきょく駆け足になってしまった。今回の企画は音声ガイドを借りない人には出展リストが配布されないこともあって、事前学習なしで訪問した私は実はとても困った。思いつきで行動する人間には辛いご時世なのだった(日時指定券を入手したところで満足してはいけない)。

展示内容は素晴らしい。太田記念美術館、日本浮世絵博物館、平木浮世絵財団のまさに名品揃い。同じ作品を並べて展示してあったりして、刷りの違いを比較できたりするのがとても興味深かった。個人的に目が離せなくなったのは、写楽の作品かもしれない。初見の作品もあったし、なにしろとてもコンディションのよい作品が多かったように思う。版画の世界は奥深い。

もっとゆっくり眺めたいので、もう1回行く機会を作ろう。


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『数奇なアイルランドのおとぎ話』

姪と出かけた書店で見つけた本。「数奇」に惹かれ、なんかおとぎ話もいいかなと思って読んでみた。アイルランドについてはあまり詳しくないのだけれど、ヨーロッパの風景を思い出しながら、ちょっと捻くれた話を楽しんだ。で、この本はイギリスのおとぎ話を紹介するシリーズの1冊であることにあとがきを読んで気が付いた。イングランドとかスコットランドのお話に触れてみるのも悪くないかもしれない。

私的には犬が出てくる「クウァルのフィンの物語」が好きだった。ゴールデンレトリーバーアインシュタインという名前をつけるのが私の夢の一つなのだけれど(『ウォッチャーズ』という本のせい)、もし犬を飼うことができたらフィンという名前も検討したい。

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『Glyph*』

マイクロソフトWordではなくGoogleドキュメントでぱぱっと確認しようとしていたときにふと気になったことがあって、その延長で入手してみた。グリフの成り立ちとデザインのバリエーションが確認できる本だったりする。そもそもグリフとは何かについては、モリサワに教えてもらった。

グリフ | フォント用語集 | 文字の手帖 | 株式会社モリサワ

それなりにわかっているつもりだったけれど、それぞれの記号のもつ歴史的背景とか、現代の使われ方などについて丁寧に解説されていてとても勉強になった。文末を示す . を米語ではピリオド(period)と呼ぶのに対して、英語ではフルストップ(full stop)と呼ぶとか、無限大の記号♾の起源は、ローマ数字の1,000からきていたりするとか、へぇという発見をたくさん見つけた。

私的に知りたかったのは、段落記号のこと。ピルクロウ(pilcrow)という名称だったのか。知らなかった。

もう一つ面白かったのが、マイナス記号のこと。「マイナス記号はしばしばハイフンと混同される」という記述があって安心した。最近目にする多くの本がハイフンをマイナス記号として使われいて、嫌だなと思っていたのだけれど私だけではないのだなと親近感をもった。

ちなみに、glyphという単語はOEDではひっかけられるけれど、ロングマンには出てこなくて、それはそれでへぇとなったりしてみたり。

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『本の歴史』

クヌース先生の本を読む機会が増え、とはいうもののその内容を理解できる能力に欠けるので表面をなぞるくらいで精一杯なのだけれど、バックボーンとなっている知識の豊かさに触れられるのはありがたいことで、個人的に調べてみたいことをいくつも見つけている。その中の一つが、組版、タイプセッティングであるのは、クヌース先生を知っている人であればわかりやすい展開だろう。とはいえ、その内容は広範囲に及ぶ。そういえば、本そのものの歴史というのをきちんと追いかけてみたことがあるとはいえない。というわけで、本の歴史に関する本を読んでみた。

河出の『図説 本の歴史』は印刷博物館の人たちがまとめている日本から見た本の歴史という感じ。世界に広がる本のことを体系的に追いかけることができる。朝鮮半島では西洋の活版印刷に先立って金属活字の鋳造が行われていたとのこと。13世紀には利用されていたという。印刷博物館に複製があるということなので、次に行ったときに確認してみたい。どのようにリニューアルされるのか、そちらもずっと楽しみにしていたりする。

創元社の『本の歴史』はフランス語からの翻訳書。欧州を中心としたきれいな本を眺めているだけで楽しい。この本には資料編として荒俣宏による解説が加えられていたりする。イギリス人にとって本はゲストであるのに対して、フランス人にとって本は生涯の友であるという解説がとても興味深かった。フランス人には、「本は読むよりも前に買い集めるもの」なんだとか。イギリス好きな私だけれども、本に関してはフランス人の方が共感できることが多いのかもしれない。

私的にこの本のなかでいちばん気になったのは、「十二折り判」の存在だった。一折24ページという使い方があるのか。解説しているページを見つけたけれど、どのように折るのかもう少し調べてみたい雰囲気である。

この本の造本はとても凝っているのだけれど、ちょっと気になるところもあったりする。原著と比較してみたいところ。

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『ウルトラ・シークレット』

NHKの「フランケンシュタインの誘惑 人工知能を予言した男」のアンコール放送を見直していて、気になったので入手してみた本。活版で組まれている昭和51年発行の古書。この本が出たことで暗号解読の事実がわかるようになったのだとか。ブレッチリー・パークを3回も訪れたことがある変人の私としては、読まずにはいられなかったという次第。

英国の情報将校として第二次大戦に従軍した空軍大佐による記録であるこの本の内容は、戦勝国の軍人視点のため、中立性に欠ける部分も見受けられるけれども、それまで秘匿されていたブレッチリー・パークの活動内容が明らかにされたと思うと感慨深い。ブレッチリー・パークのガイドブックを見直してみると、筆者が所属していた三号棟(Hut 3)は、Hut 6でコードブレイクされたドイツ軍の文書の翻訳と分析を行っていたところだった。筆者たち情報将校とチャーチルらは密に連絡をとり、重要な作戦の遂行に役立てていたらしい。その一方で、機密保持が徹底されていたことは、後の世を生きる私たちもよく知るところだ。

日本軍の暗号解読が行われていたことにも触れられてはいるが、筆者の関心は高くはない。ブレッチリー・パークには、米国と共同で暗号解読に取り組んでいた記録がきっちり残されている。

番組で取り上げられるくらいなので少しは何かしら記述があるのかという期待に反して、この本はコードブレイカーについてはほとんど触れられていない。「ブレチリーの暗号解読家たちが“エニグマ”の謎を解くにあたって、電子工学という新しい科学の力をかりたということは、すでによく知られている。」とあるくらいで、暗号解読者、ましてアラン・チューリングの名前も出てこない。そういう時代だったのだということを改めて実感する。

私にはよくわからないけれど、たとえ戦時ではないとしても国による情報の機密保持は現代も堅持されているであろうことは容易に想像がつく。表層的な報道などに一喜一憂することなく、ささやかな日常を大事にしよう、とかそんなことを思った本だった。


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『三体 II』

楽しみにしていた三部作の第2部。怒涛の展開を楽しんだ。第3部が待ち遠しい。

詳しい人がいろいろ解説を加えてくれるのだろうけれど、私の心にいちばん残ったのは、長い冬眠から目が覚めて視力回復処置を受けたとしても、眼鏡をかけていた人は眼鏡がないとしっくりこないというくだりだった。とてもしっくりくるエピソード。

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