『ウルトラ・シークレット』

NHKの「フランケンシュタインの誘惑 人工知能を予言した男」のアンコール放送を見直していて、気になったので入手してみた本。活版で組まれている昭和51年発行の古書。この本が出たことで暗号解読の事実がわかるようになったのだとか。ブレッチリー・パークを3回も訪れたことがある変人の私としては、読まずにはいられなかったという次第。

英国の情報将校として第二次大戦に従軍した空軍大佐による記録であるこの本の内容は、戦勝国の軍人視点のため、中立性に欠ける部分も見受けられるけれども、それまで秘匿されていたブレッチリー・パークの活動内容が明らかにされたと思うと感慨深い。ブレッチリー・パークのガイドブックを見直してみると、筆者が所属していた三号棟(Hut 3)は、Hut 6でコードブレイクされたドイツ軍の文書の翻訳と分析を行っていたところだった。筆者たち情報将校とチャーチルらは密に連絡をとり、重要な作戦の遂行に役立てていたらしい。その一方で、機密保持が徹底されていたことは、後の世を生きる私たちもよく知るところだ。

日本軍の暗号解読が行われていたことにも触れられてはいるが、筆者の関心は高くはない。ブレッチリー・パークには、米国と共同で暗号解読に取り組んでいた記録がきっちり残されている。

番組で取り上げられるくらいなので少しは何かしら記述があるのかという期待に反して、この本はコードブレイカーについてはほとんど触れられていない。「ブレチリーの暗号解読家たちが“エニグマ”の謎を解くにあたって、電子工学という新しい科学の力をかりたということは、すでによく知られている。」とあるくらいで、暗号解読者、ましてアラン・チューリングの名前も出てこない。そういう時代だったのだということを改めて実感する。

私にはよくわからないけれど、たとえ戦時ではないとしても国による情報の機密保持は現代も堅持されているであろうことは容易に想像がつく。表層的な報道などに一喜一憂することなく、ささやかな日常を大事にしよう、とかそんなことを思った本だった。


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