愛すべきギターの師匠である前原孝紀さんを送る会に顔を出してみることにした。
記憶をたぐってみても、前原さんとの出会いが何年前になるのか、すでに私は覚えていない。仲良くしてもらっているヴォーカリストとの共演がきっかけだったことは間違いないが。話すきっかけとなったのは、前原さんが配っていたライブの予定に「テルミン」とあったことだったと思う(確か手書きのフライヤーだった)。その後、テルミンとのデュオを聴きにいったあたりから顔見知りになっていた。
その頃の私は一人の音楽好きだった。ライブの休憩時間にあれこれ話しているときに、知り合いからギターを借りているという話題になったとき、レッスンを受けてみないかというのが、師弟関係の始まりだった。
中学生のときに少しだけフォークギターを触ったことがあるとはいえ、素人な私に根気よくレッスンしてくれたと思う。それなりに理論的にやりなさいと、コード理論などについてはときに厳しく指導してくれたり。弾き語りでやってみようとか、適当でいいのでアドリブをやってみようなどなど、無茶振りも多かったが、ともかく楽しんでやってみましょうね、という素敵なレッスンなのだった。
レッスンはアーティスト丸出しの前原さんのアジト的な部屋でやっていた。休憩時間になると、世間話よりも未確認飛行物体の話でよく盛り上がっていた。レッスン後に飲みに行ったことも何度もあった。飲み始めるとだめな人になるのは誰もが知る事実。終電がなくなるまで話し込んだこともあった。
都合がつく限り前原さんのライブには足を運んだものだ。私の好みに合わせてくれることもあったり、面白いと思うので聴きにおいでということも何度もあった。日暮里、池袋、銀座、大泉学園、祖師ヶ谷、横浜、上尾と、ずいぶんあちこちのライブハウスを経験させてもらった。
アーティストとしての前原さんはとても繊細な人で、気になるときにはPAのバランスなどを休憩時間に確認してきたりもした。サウンドチェッカーとしての私は少しは信用されていたのかもしれない。
と、日本酒を飲みながらつらつら書くだけでも思い出はつきない。少しは現実に向き合うこともできたようだ。家に戻ったらギターをチューニングするところからリスタートしよう。